私たちの脳全体は、常に外敵から逃れたり、闘ったりするために働いています。この脳の働きこそが、人類が生きるための基本なのです。したがって、どんなに生活環境が恵まれていたとしても不安感が生じてきたりするのです。

私たちの理性は、本来は「知的に」「冷静に」状況を捉えることができるはずです。大脳新皮質の働きにフォーカスすれば、理性で不安をコントロールできるはずなのです。しかし、大脳新皮質が発達しても、現代人の不安や悩みはますます増えていっているのです。

私たちの生命体としての反応や行動を支える最も強力なエンジンの役目をしているのが、「大脳辺緑系」という脳の部分です。実はこの「大脳辺緑系」こそが、私たちの感情反応や気分や幸福感、不幸感を支えているのです。

理性の働き、すなわち大脳新皮質の働きで、大脳辺緑系の反応を抑え込むことは、とても難しいものです。抑え込むのではなく、大脳辺緑系に優しい刺激を送り、少しでも安心させることが必要です。

意外かもしれませんが、大脳辺緑系に直結しているのは「匂い感覚」だけです。他の感覚は、いずれも直結していません。「匂い」情報は、まず大脳辺緑系に入り、大脳辺緑系は安全か危険かを瞬時に判断し、必要な体の反応を起こします。その後に、大脳新皮質に届き、初めて感覚として私たちに意識されるのです。

したがって、日常生活では「匂い」感覚は私たちの無意識レベルで働いており、ほとんど意識にはあがってきません。それどころか、ほとんどの人は食事の匂いにすら意識を向けていません。実はおいしさの80％以上は匂い感覚が作っており、実際の味覚は20％程度しかないと言われています。

このように、ほとんど意識されない匂いですが、大脳辺緑系を癒すのには最適です。私たちの心の不安、悩みなどの痛みや、逆に幸福感を作り出す最大のエンジンとなっている大脳辺緑系を癒すのに、積極的に匂いを使いましょう。